東京高等裁判所 昭和32年(う)1646号 判決 1958年3月03日
被告人 北代幸与
児童福祉法第三十四条第一項は、何人に対しても同項各号の行為をすることを禁じた規定であつて、所論のように児童と上命下従等の特定の身分関係を有する者のみに対する禁止規定でないことは、右規定の解釈上明白であり、また右規定においては、満十五才に満たない児童を対象とする場合には、同項第三号、第四号、第五号のように、特にその旨を明定しているに拘らず、同項第六号においては、児童の年齢に何ら制限を設けていないのであるから、同号の児童とは同法第四条に規定する満十八才未満の児童全部を指称するものと解すべきである。それ故仮に被告人とE子との間に所論のような身分関係がなかつたにしても、原判決が被告人の満十八才未満のE子に淫行させた本件行為に対して、児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項を適用したのは正当といわなければならない。所論は独自の見解をもつて右規定を解釈し、原判決を非難するものであつてこの点に関する論旨も理由がない。
(裁判長判事 中村光三 判事 滝沢太助 判事 久永正勝)
別紙(原審の児童福祉法違反事件の判決)
○主文および理由
主文
被告人を懲役三月に処する。
但し、本裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
一、罪となるべき事実
被告人は肩書住居において飲食店「宿毛」を経営し、且従業婦をして同店居室において遊客に売淫させることを業としているものであるが、昭和三十一年五月下旬頃、満十八才にならないE子(昭和十四年七月二十二日生)をして、同女が十八才未満であることを知りながら、右「宿毛」の従業婦に使用させるための一室に止宿させ、その頃より同年六月三日頃までの間、同女をして氏名不詳の者数名に売淫させ、もつて児童に淫行をさせたものである。
一、証拠の標目
E子についての身上調査に関する照会書
証人E子の訊問調書の記載(昭和三十二年四月四日付及び同年七月四日付)
同証人の当公判廷における証言
証人谷口節子、同佐藤芳子及び同寺岡博司の当公判廷における各証言
荒生国蔵作成の田中百合子の診療薄(カルテ)写の記載及び被告人の当公判廷における供述(但し被告人の経歴及び営業に関する点)並びに被告人に対する前科調書の記載
一、被告人及び弁護人の主張について
被告人及び弁護人は、被告人は昭和三十一年六月十八日より同年七月八日迄の間は、E子を被告人方「宿毛」に止宿させ皮ふ病の治療や掻は手術をさせる等親に代つて面倒を見てやつこたとはあるが、それ以外にはその前後には同女を止宿させたことはなく、ましてや公訴事実摘示の日である同年五月二十五日頃から同年六月三日頃までの間同女を雇入れて、これに売春させたことは全くないと主張し、種々証拠の申出をなしたので、当裁判所は出来得る限りその申出証拠を取調べたが、前掲摘示の証拠によれば、被告人は右E子を止宿させたと主張する日より凡そ十日位前まで凡そ二週間位、同女を「宿毛」の三階の一室に止宿させ同女が同室において遊客と淫行を為すことを容易ならしめ、被告人はこれを了知しながら適切な処置をなさず同女が淫行行為をなすことを黙認していたことはこれを否定し得ないのであつて、結局判示日時に被告人が十八才未満のE子に淫行をさせた事実を認め得るのであり、被告人は児童福祉法所定の児童に淫行をさせた罪責を免れることはできない。
一、法令の適用
判示被告人の所為は児童福祉法第三十四条第一項第六号及び同法第六十条第一項に該当するから、所定刑中懲役刑を選択して被告人を懲役三月に処し、刑法第二十五条を適用して情状本裁判確定の日より三年間その刑の執行を猶予するものとし、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条により被告人の負担とする。
依つて主文の通り判決する。
(昭和三二年九月三〇日 東京家庭裁判所 裁判官 長谷川武)